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ユングがぶつかった壁

父親のように慕っていたフロイトと決別した頃のユングは、
人生最大の危機を迎えていたと言っても過言ではないでしょう。

 

単に“師”を失っただけではなく、
精神分析界からも身を引いてしまったわけですから…。

それまで信じて突き進んでいた道が突然分断されてしまったのですから、
いくら心理学者といえども

来し方行く末に悩んでしまうのは無理もありません。

 

この当時の自分自身を指して、ユングは、
「父親に反発して家出をしてみたものの、どうして良いのか分からずに

途方にくれる父親コンプレックスを持った青年」
…と表現しています。

 

折しもユングは、40代を迎えようかという時期。
いわゆる、中年期にさしかかる頃でした。

 

いわば、人生の折り返し地点ともいえるこの時期。
ユングに限らず、多くの人々が「今までの自分を振り返り」、

そして「これからの生き方」「自分の存在意義」について
思い悩む年頃でしょう。

 

いわゆる、「中年期の危機」といわれる状態です。

転んでもタダでは起きないユング先生

それまで、ひたすらに精神医学の道を邁進してきたユング。
しかし、中年期の危機を迎え、

自分の人生の意味を探りながらもがき苦しむ時代に突入します。

 

この時期のユングは、恐ろしい夢を観たり、
繰り返し襲ってくる幻覚に悩まされたり…。

やがて、彼は、それまで自分が研究の対象としてきた精神病的な要素が
自分自身の内部にもあることに気づきます。

 

しかし、そこはさすがユング先生!
転んでもタダでは起きません(笑)。

普通の人ならそのまま病の世界へと
引きずり込まれてしまいそうなものですが、

ユングは自分自身を研究対象として考え、
幻覚を受け止める決意をします。

 

これまで、
「自分自身の中に湧きあがってきたイメージを否定せずに

そのまま受け入れるように」
…と患者たちに指導してきたユングですから、

自分が病から逃げるわけにはいかなかったのでしょう。

 

彼は、幻覚の恐怖と闘いながらも自己との対話を繰り返し、
「中年期の危機」と徹底的に向き合おうとしました。

 

彼が自分に繰り返し問うたのは、
「お前はどんな神話を信じていきているのか?」

「お前が生きる神話とはどのようなものか?」
…ということ。

 

ユングによれば、私たちにとって神話とは
「自分たちがこの世に生み出された意味」「生きる意味」

を見出すために重要な役割を果たすものでした。

 

人間は全てを100%科学ベースで考えられるほど
ドライな生き物ではありませんので、

非科学的な「神話」を心の拠り所にしている部分があると考えていたのです。

「神話」を生きる

中年期の危機を乗り越える際、ユングは、
自分自身の中の「神話」を探し求めました。

 

私たち人類はなぜこの世界に生まれたのか?
死んだらどうなるのか?

そもそも、この世界はなぜできたのか?

 

…これらの根源的な問いに応えられるのは、唯一、
「神話」だけだとユングは考えていたのです。

 

例えばキリスト教神話によれば、私たち人間は
「神が土の塵で作った人形に命を吹き込んで」造られたのだとか。

そこには、科学的根拠など必要ありません。
それを信じることによって根源的な問いが解決され、

心が満たされるのであれば、人は誇り高く生きていけるのです。

 

自分の生き方が分からず途方に暮れてしまうのは、
「信じるべき神話を失っているから」だとユングは考えたのです。

現代の心の問題の多くは、神話を持たないことによって生じる
虚無感や孤独感が一因になっているともいえるかもしれません。

 

中年期を迎えて、自分の「今まで」と「これから」に悩んでいる方は、
ぜひ、自分自身と向き合うことで

“あなただけの”神話を探してみてください。

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