言語連想実験とは?
医学部を卒業したユング青年は、
チューリッヒ大学医学部の関連施設・ブルクヘルツリ精神病院に
住み込みで勤務することになりました。
この病院、当時は、なんとヨーロッパ屈指の先進病院!
しかも、院長を務めていたのは
「精神分裂病」の名付け親としても名高いオイゲン・ブロイラー先生。
向学意欲の高いユングにとって、
これ以上の環境はないというくらい恵まれていたようです。
ここでユングは、患者や他の医師たちとのやりとりを通して
精神病への洞察を深めていったのです。
とりわけ、ユングが注目したのは、強迫観念や幻覚といった症状。
彼は、これらの症状は無意味なものではなく、患者の背後にあるもの、
例えば人格や生活史、願望などが込められていると考えていたのです。
そして、ここから生まれたのが、有名な「言語連想実験」です。
この実験は、簡単に言うと、
「ある単語に対して、何を連想するか?」また、
「連想するまでにどのくらい時間がかかるか?」
「どんな反応をするか?」
…といったことを試すテストです。
実験者が「花」「窓」「お金」「歌」…といった具合に、
互いにあまり関係がなさそうな単語を次々と読み上げます。
それに対して、患者は「スイートピー」「空」「財布」と、
連想する言葉を報告します。
この時、もしある単語に対して明らかな言い淀みが見られる場合は、
そこに何らかの心理的な抵抗があると考えられます。
これを追求していけば、
患者の心に潜んでいる問題を解明できるとユングは考えたのです。
私たちの中に潜む「コンプレックス」
誰にでも、触れて欲しくないこと、
自分でも忘れてしまいた過去の一つや二つ、あるのではないでしょうか?
自分にとって都合の悪い話題になると、
人は口数が減ったり、話を逸らしたりするものです。
この現象は、ユングの言語連想実験においても非常に重要なポイントでした。
ユングによれば、言い淀んだり言い間違えたり、
同じことを何度も繰り返したりするのは、
私たちの中の「コンプレックス」が刺激されるからなのだとか。
ここで言う「コンプレックス」とは、
「劣等感」とはまたちょっと違った意味で使われています。
ユングのいうコンプレックスとは、「感情に色付けされた心的複合体」。
例えば、ある特定の事柄について極端に感情的になってしまったり、
妙にこだわってしまったり、
意固地になってしまったりすることはありませんか?
他のことなら笑って流せるのに、
そこだけはどうしても気になってしまうというポイント…。
これは、「自分は○○の面で劣っている」という
単なる劣等感を通り越して、
もっと複雑な心の反応が生じているからなんです。
しかし、自分ではその反応に気づいていないor認められないため、
そのポイントを他人から指摘されると、
カッと感情的になってしまったり、
ものすごく不快なもやもやした気分になったりするわけ。
このような、自分自身にも言葉ではうまく説明できない
複雑な心の反応が、ユングの言うところの
「コンプレックス」なのです。
興味深い実験研究
ユングの言語連想実験とはちょっと異なりますが、
クライアントの「言葉」の変化から「心」の変化を見ていくという
興味深い実験研究を行っている先生がいらっしゃいます。
「門前研究所」の、門前 進先生です。
先生は、國學院大學助教授、早稲田大学人間科学部教授を歴任。
現在は門前研究所所長として独立し、研究に専念していらっしゃいます。
門前先生の実験は、一言で言うと
「カウンセリングプロセスを客観的なデータを用いて分析する」
…というもの。
国立国語研究所の語彙分類表のデータベースを使用し、
クライエントの全発話語彙の語彙内容における変化を見ていきます。
この変化と、クライエントの心理状況の変化との関連に
焦点を合わせた実験なのです。
実験の解析には、門前先生が独自に開発した「MVAS」というソフトを使用。
時系列的に集められた1000語以上の発話内容をMVASで分析し、
さらにその結果を、因子分析を中心にしてデータ分析します。
MVASによって分析された結果をもとにすれば、
その人の文章の特徴をとらえることも可能なのだとか!
文章の特徴を捉えることができれば、
そこから対人関係の持ち方の特徴を理解することも不可能ではありません。
この「MVAS」は購入することもできるようですので、
ご興味のある方はぜひ。