“対話重視”がユングのポリシー
誰かのことを良く知るためには、
それがどんな形であれ「対話」が大切ですよね。
そうでなければ、自分の先入観や好き・嫌いだけで
人を判断してしまったりすることにつながります。
人が考えていることをしぐさだけで読み取ることは容易ではありませんので、
そこはやはりコミュニケーションが必要になってくるわけです。
…これは、健康な人だろうが精神病の患者だろうが、同じこと。
精神病だからといって、
ただ「妄想」や「幻覚」といった症状だけを見ていたのでは、
本当の意味でその人に合った治療を行うことはできません。
治療の糸口を見つけるためにも、
症状のみならず患者の人格や性格にもっと目を向けなければ…。
ユングはそう考え、
精神病患者との「対話」を非常に大切にしていたようです。
患者と、“1人の人間として”
向き合おうとしていたんですね。
精神病とは?
ところで、「精神病」とはどのような症状の病気のことを言うのでしょうか。
これは、主に「幻覚」や「妄想」を主とする症状をきたす状態のこと。
例えば、本当はそんな虫はいないのに、自分の身体を這いまわる虫が見えたり、
「私はある国の王女だ」「誰かに追われている」
「周りの人はみんな自分を狙っているんだ」
…といった非現実的で突飛なことを口にしたり…。
電車の中でも、たまに見かけませんか?
誰もいないのに、誰かと会話をしているような人。
その人には、私たちには見えない誰かが見えているのです。
「統合失調症」、ちょっと古い言葉だと
「精神分裂病」がよく知られていますよね。
精神病院入院患者の半数以上は、
この統合失調症の患者で占められているそうです。
この病気、実はなにかと誤解されがちなんです。
精神病状態だと、
「現実的な判断ができない」「自分が病気であることが分からない」
と思われがちですが、実はそうでは有りません。
病識がないのは症状が最も活発な一時期だけであって、
それ以外の時期は自分が病気であることを認識できています。
原因はまだ正確には特定できていませんが、
生まれつき持っている「病気のなりやすさ」(素因)に
日常的なストレスなどが加わると
発病しやすくなるのではと考えられています。
ちなみにユングは、精神病患者に特徴的な
幻覚や妄想が持つ意味を非常に重視していました。
これらは無意味なことではなく、
その患者の人格、成育歴、願いなどが込められていると考えていたのです。
患者との対話を重視することによって、
彼らの症状の背後に隠された「意味」を理解しようとしていたんですね。
言語連想実験とは?
ユングといえば、「言語連想実験」が有名です。
でも、コレって一体そんな実験なんでしょうか??
簡単に言うと、「ある単語に対して、何を連想するか?」
また、「連想するまでにどのくらい時間がかかるか?」
…といったテストです。
実験者が「花」「窓」「お金」「歌」…といった具合に、
互いにあまり関係がなさそうな単語を次々と読み上げます。
それに対して、患者は「スイートピー」「空」「財布」と、
連想する言葉を報告します。
ユングの実験で特徴的なのは、連想した言葉を口にする時の
言い淀みや、同じ単語が繰り返される
…といった現象に注目したことです。
言い淀むということは、
そこに何らかの心理的な抵抗があると考えたんですね。
確かに、あまり触れて欲しくない話題が出た時って、
人はその話題を避けようとしたりしますよね。
これを追求していけば、
患者の心に潜んでいる問題を解明できるとユングは考えたのです。
これも、「対話重視」のユングらしい研究だと言えるのではないでしょうか。