河合隼雄先生ってどんな人?
日本におけるユング心理学研究の第一人者といえば、やっぱりこの方!
河合隼雄先生でしょう。
河合隼雄先生は、
日本で最初に「ユング派分析家」の資格を取得した心理学者です。
ユング派分析家とは、その名の通り、
ユングが確立した技法を用いて心のケアにあたるカウンセラーのこと。
この資格を取得するためには、
4年以上にも渡る精神的にかなりハードな訓練を受けなければなりません。
単にユングの著書で勉強したからといって
誰でも「ユング派」を名乗れるかといえばそうではないんです。
河合先生は、1965年にスイスのチューリッヒにある
「カール・グスタフ・ユング研究所」において
見事、分析家の資格を取得しています。
ただでさえ取得困難なこの資格を、
言葉の壁を乗り越えて取得したというのは実にお見事!
なかなかできることではありません。
日本に帰国後は、国際箱庭学会や日本臨床心理士会の設立等、
国内外におけるユング分析心理学の理解と実践に貢献。
日本においてユング心理学の人気が高いのは、
河合先生の尽力の賜物と言っても過言ではないでしょう。
この功績が認められ、2002年〜2007年までは
文化庁長官(民間人からの文化庁長官就任は17年ぶり3人目)にも
抜擢されていました。
著書も数多く出版されており、その親しみやすい文体ゆえに、
心理学界のみならず一般の方々からも厚い支持を得ています。
残念ながら、2007年7月19日に脳梗塞で逝去されましたが、
これからも「ユング心理学といえば河合隼雄先生」という図式が
揺らぐことはないでしょう。
河合先生とユング心理学
日本にユング心理学を紹介したことで知られる河合隼雄先生ですが、
日本国内で急速にユング心理学が普及していく中で、
どうしても拭い切れない違和感を覚えていたようです。
それが、西洋人と東洋人の間の「心の構造」の違いです。
みなさん自身にも自覚症状があると思いますが、私たち日本人は
周りの雰囲気や周りの意見に流されやすいところがありますよね?
「自分は自分」と分かっていても、貫き通す覚悟がないというか…。
河合先生によれば、それは、
他者と自分を区別する「自我」の意識があいまいでハッキリしないから
なのだとか。
常に周りの環境や人間関係に合わせて
自分を変容させてバランスを保っているようなところがあるのです。
逆に、西洋人はこの境界がくっきり明確!
他人と自分をしっかり区別して考えることができるといいます。
(「人は人、自分は自分」という意識が非常に明確)
ユング心理学はもともとヨーロッパで生まれた理論ですから、
当然、西洋人の心的構造を元に組み立てられていますよね?
だからこそ、河合先生は
そこに違和感を覚えずにはいられなかったわけです。
このような西洋・東洋の違いを考慮して、河合先生は、
ユング派の心理療法を日本人に合う形で修正しています。
具体的には、
自己と他者をハッキリと分けることができないわけですから、
治療者が必要以上に介入し過ぎることは相手に警戒心を与える原因になる
と考えました。
河合先生は、相談者に刺激を与え過ぎないよう
「介入を控えて相手の話をじっくり聞く」
…という姿勢を重要視したのです。
河合隼雄先生の著書
日本では、ユング本人と同じくらいorそれ以上の知名度を誇ると言っても
過言ではない河合隼雄先生。
もちろん、著書も数多く出版されています。
中でも、筆者のオススメは、『こころの処方箋 (新潮文庫)』 [文庫]
体調が悪い時に薬をもらうためには処方箋が必要ですが、
本書も、まさにそんな存在。
どんな薬(=考え方)を与えれば心が元気になるかを教えてくれます。
例えば、一番印象的だったのは、
「100点はときどきでよいのだ」と言うフレーズ。
「ここ一番!」という勝負どころ以外は、
無理に100点を狙わなくて良いという教えなんです。
そうしないと、無用な労力を費やすことになりますよね。
それで肝心な時に50点だったら意味がない。
いつもいつも100%頑張らなくても良いだよ。
…これって、ちょっと心がラクになる考え方ですよね。
この本には、そんな優しいメッセージが溢れています。
常に「心というものは、本当に分からないものですねえ」
というスタンスに立っていた河合先生らしい一冊ですね。
タクシーに乗るとなぜか運転手さんに人生相談をされてしまうという
河合先生のお人柄がよく分かります(笑)。