古代ギリシャの神に由来する概念
ユングが提唱した理論、「元型(アーキタイプ)」の一つに、
「永遠の少年」という表象(イメージ)があります。
これは、簡単に言うと、
すでに成人して“いい年”になっているにも関わらず
心理状態が思春期止まりの人間のこと。
16、17歳ならば普通であるような幼さ、思考を、
ハタチ過ぎてもズルズルと引きずっているような人です。
この「永遠の少年」とは、
もともとは古代ギリシャの神に由来する言葉。
成人を迎える前に亡くなったオヴィデイウスという神が、
太母(グレートマザー)の子宮のなかで再生し、
少年として再びこの世に生まれ、
決して成人しない英雄となる…。
ユングはこの神話(転身のストーリー)に由来し、
大人になれない人間のことを「永遠の少年」と呼んだのです。
ちなみに、この永遠の少年の元型(アーキタイプ)は、
ギリシア神話のみならず世界各国の神話や伝説、民話、
お伽話にも出現しています。
日本の昔話も例外ではなく、例えば桃太郎や金太郎、
一寸法師も「永遠の少年」モチーフの一種と言われています。
若々しいエネルギーの象徴
ユングが提唱した「永遠の少年」というイメージは、
人類全体に共通する無意識の領域、
「普遍的無意識・集合無意識」から浮かび上がってくるもの。
いわゆる「元型(アーキタイプ)」の一種です。
このアーキタイプには、下記のように5つの種類があります。
・グレートマザー(太母)
・オールドワイズマン(老賢者)
・アニマ(男性の無意識内にある女性的特性)
・アニムス(女性の無意識内にある男性的特性)
・永遠の少年
永遠の少年が象徴しているのは、第一にはやはり「若さ」でしょう。
永続的な、若々しく逞しい肉体。美しさ。清浄で明晰な精神。
これらは、望んだからといって簡単には手に入れることができない
圧倒的な魅力を持つものです。
「永遠の少年」の病理
永遠の少年の特徴だけ見てみれば、
「何が悪いの?いつまでも若々しくってほほえましいんじゃない(笑)?」
と思われるかもしれません。
しかし、身近な人、例えば自分の夫が
“永遠の少年”だったらどうでしょうか?
いつまでも大人になれず、現実を直視できず、
夢物語ばかり語るような…。
奥さんとしては、ほほえましく思う一方で、
将来のことを考えると
なにかと不安になってしまうのではないでしょうか?
これが、ユングが提唱した「永遠の少年」の病理です。
若々さを失わないということは、良い面がある一方で、
現実社会への適応性が低くなるというデメリットもあるわけで…。
永遠の少年のイメージに強い影響を受けている人は、
現実逃避による環境不適応を起こしやすいという
困った一面を持っているんですね。
大人になりたくない、
すなわち「成熟拒否」の表れともとらえられるようです。
この病理は結構深刻で、例えば老化恐怖による「全般性不安障害」や
性的関係への嫌悪、成熟拒否からくる摂食障害、インポテンツ…と、
様々な病的症状として表面化してくる可能性があります。
なにかと理不尽なことがつきものの現実社会ですが、
年相応に適応しつつ、なおかつ理想も追及できるような…
そんな「精神の成熟」を自然に実現することが難しい
そんな世の中になってきているのかもしれません。
実際、会社組織の中を見ても、
いつまでも大人になれない人って多いですからね(苦笑)