ユング心理学の世界へようこそ

これは単なる偶然なの?

私たちの人生には、不思議な「巡り合わせ」が度々起こりますよね。

 

例えば、今まさに会話に登場していた芸能人が
テレビでも同じタイミングで現れたり、

噂をしていた人から突然電話がかかってきたり、
お金が必要な時に限ってATMが故障していたり…。

 

実は筆者にも、苦い経験があります。
母から送られてきたリンゴを一つ、腐らせてしまったので捨てたのですが、

その翌週に母が乳がんであることが判明したのです。

 

このような出来事は、
「これが原因でその出来事が起こった」

…と原因と結果の因果関係を説明しづらいところがあります。
無理に結び付けようとすると、

ちょっと「こじつけ」のようになってしまいがちですので…。

 

一見、全く別々に起こったように見える出来事も、
当事者にとっては大きな意味でつながっているように思える「巡り合わせ」。

ユングはこのような出来事を「布置」と呼び、
それをさらに発展させて「共時性」という概念を提唱しました。

「共時性」という考え方

ユングの言う「共時性」とは、個人レベルでの「布置」を超えるもの。
原因と結果のつながりを説明することが難しく、

しかし、単なる偶然と考えるにはあまりにも確率が低い出来事について、
この「共時性」という言葉を使っていました。

 

共時性を理解するには、次の例を考えると分かりやすいでしょう。

 

●因果関係がある場合
AさんとBさんが一緒にいたとき、Cさんからメールが入った。

Aさんは、「今、Bと会ってるから、お前も来るか?」と誘った。
その数分後に、Cさんが同じ店にやってきた。

 

 ⇒「Aさんが誘った結果、Cさんが現れた」
 因果関係が成立している。

 

 

●因果関係がない場合
AさんとBさんが一緒にいたとき、Cさんの話題になった。

「あいつ、今頃どうしているのかなあ」と話していたところ、
その数分後に、Cさんが同じ店にやってきた。

 

 ⇒「誘ったわけではないのに、Cさんが現れた」
 因果関係は100%説明できない

 

 

この「非因果的連関の原理」が「共時性」というわけです。
確かに、「AさんとBさんが話題に出したからCさんが現れた」

と結びつけるのは物理的にちょっと乱暴。
因果関係はハッキリしていませんよね。

 

このような出来事は、私たちの日常生活ではよくあること。
あまり気に留めずに流していますが、

実はそこには深い意味があるのだとユングは説いています。

全てのことには意味がある!

単なる偶然を超えた不思議な出来事を「共時性」と名付けたユングですが、
実はユング本人も不思議な「共時性」体験をしているんです。

 

ある女性の心理療法を行っていた時、
彼女が「黄金のコガネムシ(スカラベ)が現れる夢を観た」という話をしたそうです。

 

この夢の意味を話している最中、
2人がいた部屋の窓にコガネムシがぶつかってきたのだとか。

しかもその部屋は薄暗く、本来であれば、走光性のあるコガネムシが
ぶつかってくるとは考えづらい状況だったのだといいます。

 

しかし、この不思議な出来事をきっかけに、その女性は、
今まで頑なにしがみついていた現実感から

自分を解放することができたのだとか。
どこまでも合理的にしか物事を捉えられなかった彼女が

変化するきっかけを与えたのは、
合理的には考えられない“不合理な”共時性の出来事だったのです。

 

ユングは、このような出来事にも
「元型」の力が働いていると考えました。

 

元型とは、人類の心の深い部分に共通して存在する、
普遍的なイメージパターン。

私たちが「思うこと」「感じること」は全て、
古代から受け継がれてきた「元型」の影響を受けており、

その文脈なくしては人は自分自身とも他人とも理解し合えないのです。

 

…ちょっと抽象的でよく分からないですよね(笑)?

 

要するに、
「深い部分では人や動物、植物もみんなつながっている」ということ。

だから、呼ばれたわけでもないのに話題に上がった人が来てしまったり、
絶妙なタイミングでコガネムシが飛んできたりするというわけです。

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