『1Q84』とユングの理論
今や、新作が発表される度に、TVで・雑誌で・ネットで…と
あらゆるメディアの話題をかっさらう村上春樹氏の作品。
日本の小説家の中では「ノーベル賞に最も近い」と目されることもあり、
老若男女問わずファンの多い作家の1人と言えるでしょう。
特に、2009年に発表された『1Q84 』は発売1週間で96万部を突破!
話題が話題を呼び、空前の大ヒットとなりました。
この『1Q84』、実は
ユング心理学とも深いつながりのある作品だということを
みなさんはご存知だったでしょうか?
もちろん、読んだ方はご存知だと思いますが(笑)。
BOOK3(第3巻)で、“牛河”という登場人物が殺される前に
「冷たくても、冷たくなくても、神はここにいる」
という言葉を残しているのですが、これは、
ユングの家(石の塔)の扉に刻まれている台詞のもじりなのだとか。
村上春樹氏は、ユング心理学にも造詣が深いようで、
ユング研究で有名な
河合隼雄先生との対談をされていたこともありましたね。
ユングが残した言葉
さて、村上春樹氏の『1Q84』にも登場するユングの言葉。
彼が自作した石の塔の扉に描かれているというドイツ語ですが、
直訳すると下記のようになります。
「呼ばれようと、呼ばれまいと、神はここにいる」
要するに、神は常にここ(心の中)にいるということですね。
なぜ、村上春樹氏の訳は、直訳とちょっと違っているんでしょうか?
それこそが、村上氏のセンス!
「あなたが神様のことを、冷たく感じても、冷たく感じなくても、
神はあなたの心の中にいるのです」
ということを伝えたかったのでしょう。
作品を読んでいない方は、
「なんのこっちゃ」という感じかもしれませんね(笑)。
このフレーズが出てくる場面は、牛河が拷問を受けているんですね。
ですから、究極的には
「助けてくれるような神なんかいないんだ」
「体温のある神様なんていないんだ」=生きている教祖を否定する
…といった意味にも解釈できるわけです。
偉人が残した言葉を、ストーリーに合わせて自分流に
しかも深い意味を付加してアレンジするとは…
さすが!「世界のムラカミ」ですね。
『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』を読み説く
1980年代の作品ですので、2013年現在から見れば
ちょっと古い作品にはなるのですが…。
村上春樹氏の人気作品の一つに、
『世界の終りとハードボイルドワンダーランド』
という長編作品があります。
THE村上作品!という内容で、
いわゆる“もう一つの世界”と現実を行ったり来たりすることで
ストーリーが展開されていくのですが…。
これは、まさにユング的な“元型”ワールド!
例えば、「ピンク色の太った少女」というのが登場しますが、
これは「アニマ=男性の無意識内にある女性的特性」と考えられます。
また、「影=シャドウ」も登場します。
村上作品には、この「影」がよく出てくることで知られていますね。
心理学者の方でも、
村上作品の中の「影」に関心を寄せている方が多いようです。
例えば、『羊を巡る冒険』に登場する「鼠」や「羊男」。
『ねじまき鳥クロニクル』の「ワタヤノボル」は、
ユングが言うところの「影」に相当するものと考えて良いでしょう。
ユング心理学における「影=シャドウ」は、
自分自身の中の“受け入れられない要素”
できれば見たくないもの。
見たくないが故に、押し入れに押し込んだもの。
…そういった意味合いがあるものです。
村上春樹作品に影のモチーフがよく登場するのは、
作者自身の中の統合すべき“影”が
無意識の領域から自然に表出してくる故なのか?
ある意味では、村上氏自身は、
作品に影を登場させることによってご自身の精神状態を保てている、
認めたくない“影”と折り合いをつけている…
とも解釈できるのではないでしょうか。
いずれにしても、“ユング的”な視点で
村上春樹作品を読み直してみると新しい発見があって新鮮!
二度目でも結構楽しめますよ♪